企業監視会社(The Corporate Monitoring Firm

 マーク・レイサム(Mark Latham

 

First Draft 19975月16

Second Draft 1998年6月14

 

訳文における括弧内は、訳者による追加的な注である。

  

要約

株主は、取締役候補を指名する外部の機関(Corporate Monitoring Firm)を投票によって選ぶことで、会社の経営者を効果的にコントロールすることができる。この仕組みができあがると、取締役会や経営者が、会社所有者(Owners)の利益のために任務を果たそうという気持ちを持つようになる。その結果、①資本の生産性が高まり、②経営者の報酬がより現実的なレベルになり、③短期的な結果への志向が小さくなり、④後で徹底的な合理化を必要とするような企業の膨張が抑えられる。このような制度は、西側諸国でのコーポレートガバナンスをさらに改善し、アジア諸国でのガバナンスが抱える問題を解決するために切望されていた、「即効薬」となるだろう。

  

Mark Lathamは、ファイナンシャルエコノミストであり、コンサルタントである。コンタクト先は、[updated: see www.votermedia.org/about-contact.html]。本稿の執筆にあたり、Charles Elson, Richard Homonoff, David Pyle, 及び特にMark Rubinsteinから、有益なコメントが得られた。


 

1.経営者-株主間のエージェンシー問題

 

主要国におけるコーポレートガバナンスの制度は、いずれも破綻している。株主と取締役会が結びついていないからである。例をあげれば、アメリカでは図1のように、理論上は株主が最高経営責任者(CEO)を監督する取締役会メンバーを自分たちのために選ぶことになっている。しかし、実際には図2のように、典型的な場合、この「選挙」は、現在の取締役会によって選ばれた候補者の名簿に対する、反対なしの自動承認の場となっている。この仕組みのお陰で、ほとんどのアメリカ企業で取締役会の会長を兼ねている最高経営責任者(CEO)が、自分の権威を脅かさないような友人を取締役会のメンバーにできる。しかも、他人を犠牲にして自分の利益のために会社を経営したような場合でさえもそれが可能なのである。この利益相反(Conflicts of Interest)行為が招くもっとも明らかな例は、恐らく、経営者が自分で影響を及ぼして、過大な報酬をお手盛りで決めてしまいがちなことである。(利益相反の)他の例としては、経済的に正当化できる以上に大きな帝国の建設、敵対的買収への反対、グリーンメイラーへの利益供与、などがしばしば挙げられる。

アメリカでは、この根本的な欠陥を補うための、いくつかの仕組みが発展してきた。それにはディスクロージャーの要求、買収(takeover)、少数株主の保護、受託者責任に関する法律、インセンティブを考慮した報酬、大株主からの圧力、独立した取締役などが含まれる。これらの方策の各々が、経済上の効率や、株主の利益に対する(経営者の)反応を改善した。その結果、好調な株式市場が証明するように、アメリカは、コーポレートガバナンスの分野で、まさしく世界のリーダーと評価できるようになった。

しかし、それでも根本的な欠陥は残っている。ここにあげた仕組みでも、エージェンシー問題を部分的にしか解決しないため、見逃せないような非効率性が残ってしまう。たとえば、ディスクロージャーが要求されればそれだけ、上述した(規律づけのための)他の仕組みあるいは(経営の失敗に対する)恥ずかしさといった仕組みがよりよく働くようになる。しかし、ディスクロージャーだけでは、エージェンシーを直接、解決する効果はない。また、以下に順に述べるように、他の仕組みにも限界がある。

第一に買収は、規律を与える手段としては金がかかる。必要となるコストには、買収側が払う価格と市場価格の差であるプレミアム、弁護士費用、企業を効率的な運営に戻すコスト、買収側の払う努力及び負うリスクに対する報酬、などがある。創立者が企業全体を所有していると、多角化がうまくいっていないため、かなりのコストが生じている。それを取り戻すため、買収側は会社をできるだけはやく効率化して、再度、売却したいと考えている。売却後、会社は徐々にまた非効率になってもおかしくない。

第二に不当な扱いを受けた株主は、経営者や取締役会を受託者責任違反で訴えることができる。しかし、自分本位の経営か無能力や不運かを区別するのは、裁判所にとって、実際にはむずかしい。このため、そのような訴訟で防ぎうるのは、経営陣がその権限をもっとも悪意に満ちたやり方で濫用する場合に限る。

経営者や取締役が自分自身の経済的利益を無視すると期待するのは無理がある。しかし、経営者や取締役を株主にすることで、彼らの利益を他の株主の利益と同一化することはできる。Elson(1995)他は、取締役に株式で報酬を払うように主張している。最近では、株式、オプションや企業の株価が好調であった場合により高い報酬を払う他の仕組みが広がっている。これは確かに利益相反の問題を軽減するものの、部分的な解決に過ぎない。会社を経営する主体が、株式を100%保有していない限り、利害の不一致が残るからである。しかし、経営主体に十分な富があり、過度のリスクをとろうというようなことがないかぎり、100%の株式保有はほとんど現実的ではない。

過去10年の間に、行動する株主が経営に対する最重要な規律づけの仕組みとなってきた。大規模な年金基金、特にカリフォルニア公務員年金基金(California Public Employees Retirement System: CalPERS)は、業績の悪い企業の取締役会と経営者に、経営を効率化するよう、さもないと株主の投票を失うと圧力をかけてきた。しかし、大投資家といえども、会社をいかに経営すべきかという知識に欠けているため、必ず限界がある。実はそもそも知識がないからこそ、経営者を雇うのである。所有者が経営についての知識を得るほど、経営者をよりよく監視できる。しかし、そのための時間と努力は監視のためのコストであり、保有する株式の価値が上昇することによってしか回収できない。どの所有者も会社全体のわずかの部分しか保有していないので、そこで少なからず、フリーライダーの問題に直面する。つまり、ある所有者が監視しようと努力すると、それによりすべての所有者が潤ってしまう。そのなると監視の努力を払う所有者が足りなくなるだろう。このため、こうした努力の面での先駆者は、大規模な機関投資家、特に民間企業とどのようなつながりもない、機関投資家であった。しかし、そうした機関投資家も会社の株式の5%以上を保有していることは稀であるため、監視が払われた努力に見合うだけの価値を生み出す度合いは、限られている[1]

取締役会は、会社つまりすべての株主によって報酬を得ているので、それが経営者を監視すれば、理論上は、フリーライダー問題は回避できるはずである。問題は取締役会を所有者に忠実に運営し、かつ経営者から独立させられるかである。広く学術論文、法律あるいは全米会社役員協会(National Association of Corporate Directors)などによる良識ある取締役会の慣行に関する声明では、社外取締役が必要性であると広く認められている。しかし、社外取締役には役員である以外には会社との間に正式な関係は無いにもかかわらず、最高経営責任者(CEO)と親しい関係にあるような取締役候補を選別することも、取締役会というボートを揺らすような人は次回から排除することもできる。こうした理由のため、コーポレートガバナンスを改善する鍵として、候補者選定の仕組みに注目する論文もいくつかある。

Gilson and Kaakman(1991)は、フルタイムの職業的経営者の集団(Pool)から、独立した取締役を指名する取引所(Clearing House)を機関投資家が作ることを薦めている。そうして選ばれた取締役は株主の利益を考えるように動機づけられているだろう。このプランの主要な欠点は、この取引所を運営する資金を、投資家から自発的に拠出してもらわなくてはならないために生じる、フリーライダーの問題である。取締役の選定およびその後の取締役への監視は、それに熟練するための費用がかさむ、コストの高いプロセスである。監視のための費用を他人に払わせてすませてしまう、フリーライディングが起こるため、機関投資家にサービスするための機関( Institutional Shareholder Services)を作っても、株主-経営者間のエージェンシー問題を(フリーライディングがないときほど)良くは解決できないのである。

Tosi, Gomez-Mejia and Moody(1991)も同様に独立した機関によって、取締役が指名されるように提案している。もっとも、彼らの論文では、各々の会社が自分自身の指名機関を選ぶようになっている。しかし、そこでは連邦法によってそれを実現することを提唱しており、株主がその機関を(法律によらないで)自ら、選ぶ仕組みは考えられていない。

この論文では、互いに競争しているいくつかから、経営者からの干渉なしに、株主が直接、指名機関を選ぶ仕組みを提案する。

 

 

2.解決策-監視する仲介機関(A Monitoring Intermediary)

 

(筆者は)取締役候補を指名する独立した機関を、株主が投票によって選ぶべきである(と考える)。これにより、取締役が経営者ではなく所有者の意向に反応するようになる上、他の解決策の効果がないように妨げるフリーライダーの問題を避けることができるだろう。それだけでなく、この方法をとることで、取締役会の役割を根本から変えるようなくさびを打ち込むことになりうる。

(この仕組みでは)指名機関は、その会社あるいは別の会社の取締役会に同じ候補者を次回、指名するかどうかを決めるため、取締役の実績を監視しなくてはならなくなるだろう。さらに、もし、株主の過半数が求めるなら、追加的な監視の役割を果たすこともできる。この仲介機関(指名機関)は、図3にあるように、企業監視会社(Corporate Monitoring FirmCMF)と呼ぶことができる。

翌年の取締役選挙のために、株主は毎年、CMFを投票で選ぶのである。その投票と取締役選挙との間隔は6ヶ月がもっともよいかもしれない。つまり、翌年の5月の取締役候補を指名する機関(CMF)を前年の11月に選ぶのである。しかし、誰が指名機関の候補を決めるのだろうか。経営者や取締役会が所有者の選択の幅を狭めないよう、どの株主も投票の対象となる機関を指定できるようにすべきである。売名のための、つまらない立候補は、最初に費用を払わせることで防止できるだろう。理想を言えば、投票の対象となる、仲介機関(CMF)の候補の数は、210がよい

10もの競合する機関から、株主が投票で1つのCMFを選ぼうとすると、票が割れるという問題が起きる。たとえば、株主が良いと主張する9つの候補と、その企業の経営者に近すぎる1つの候補があった場合にどうなるか。もし、経営者の派閥が株式の25%を保有していたなら、経営者の傀儡が選ばれてしまうだろう。支持の優先順位をつけた投票なら、この問題を解決できる。つまり、ただ一つの候補を選ぶのではなく、株主は仲介機関の候補である会社に一位、二位、三位と順位をつけて、もっとも支持されている候補をコンピューターが見つけるのである。9つの良い候補と、1つの悪い候補の例で言うなら、経営側の支配の外にある75%の株式が経営側の傀儡を最下位にすれば、9つの良い候補のどれかが選ばれるだろう。

このように外部の機関が取締役候補を決めても、それは現在のような取締役候補選定委員会(Board’s Nominating Committee)による選定やあるいは時に見られる、異なる意見の人が反対候補を擁立することなどができなくなるわけではない。しかし、株主がこれらの候補から指名をする際には、誰が誰を候補にしたかが候補者名簿からわかることが重要である。取締役候補を評価するのは複雑であるため、株主は彼らが選んだCMFが指名した候補をそのまま選ぶ可能性が高い。

仲介機関(CMF)を使って、監視することで、株主はごくわずかの費用で、つまり、フリーライダーの問題を避けながら、強い監視をすることができる。取締役会に入る良い候補を選ぶのは一般には、非常に複雑な作業であり、多くの株主から(評価に関する)情報を入手するのは難しい。そのため、候補者の選定は取締役のための委員会で行われ、対立する候補者がいることはほとんどない。しかし、もし、10乃至20の全国的に監視をする会社(CMF)が定評を得られれば、時々新聞のビジネス欄を読む(CMFの評判を聞く)だけで、よりよい取締役候補の選択をするための情報を得ることができる。同様に、評判を高めるための投資をしている会計事務所のことを考えてみよう。普通の株主が良い取締役候補を決めるのは難しいにもかかわらず、よい会計事務所の名をあげることはできる。

広く分散投資をした投資家が自分の持っている、何百もの会社のために監視会社(CMF)を投票で選ぶというのは骨が折れる仕事である。しかし、株主はソフトウェアを使い、すべての監視会社に対する投資家としての基本的なランキングを集計し、選挙のたびに候補となっている会社(CMF)のランク付けにあてはめることで、作業を簡素にできる[2]

各監視会社は、健全な経営判断をしており、それが監視する企業の経営者から独立しているという評判を得ようと努力するだろう。取締役一人一人より、監視会社の方がより多くの顧客企業によい長い間サービスを提供するだろうから、その能力がより正確に測られる。様々な監視会社が顧客企業の株式投資収益率にどう影響するか、統計的に比べることもできるかもしれない[3]

 

 

3.仲介機関による監視がもたらしうる利益

 

経営への監視を改善する目的の第一は、株主にとっての収益率を改善することである。この目的は、資本をより正しく使うことを通じて達成される。そうするのが経済的ではない場合でも、最高経営責任者(CEO)は、自分が好む事業に参入し、それを維持し、拡大することが知られている。独立した、非常に強力な取締役会ならこれを防ぐことができる。交渉の場に株主の利益が代表されていれば、トップ経営者の報酬は、会社の市場価値の向上に各々が貢献した部分の価値に近い額となるだろう。また、中堅経営層の訓練や昇進を監視すれば、どう会社を経営するのが最善かという知識を仲間内で独占することを防ぐことができる。

CEOの地位に権力が極端に集中しないようにすれば、階層が崩れる状態が会社中に波及する。そうなれば、権力をしっかり握るためにCEOが相当に努力しても、もはや意味がなくなってくる。有能だが権力にこだわらないCEOが、もはやイエスマンに囲まれないことで利益を得るようになるだろう。

アメリカの企業は、よく「短期志向」であると、批判される。つまり、会社の長期的な価値を犠牲にしてまで、目先の利益を追い求めるというのである。そのため、研究開発投資、設備の近代化、従業員の訓練や志気、製品の品質、顧客の満足、会社の評判、リスク管理などを無視しがちになっている。短期の利益を挙げようとすると、おおうにして、長期的な環境を破壊するような戦略をとりがちになる。たとえば、圧制をひく外国政府と一緒になると、一時的に利益を上げられるものの、長期的には会社の評判を駄目にしてしまうのと同じである。往々にして聞かれる批判は、経営者が会社の株価に注目するよう圧力をかけられており、その株価は今期のの利益や配当に強く影響されるために起こっている、というものである[4]。理論上は、現在の株価には、研究開発投資や評判を上げるための投資などから生じる将来の期待利益が反映されているはずであり、株価が重要だとしても、それが短期志向の経営に直結するわけではない。しかし、もし投資家がこれらの長期的な投資に関する情報を持たないでいたらって、また、経営者が最適な投資をするだろうという信頼もしていなかったら、目の前にあり確かめられる利益、つまり当期の利益と配当を優先するだろう。

株主に直接、責任を負う監視・仲介機関を導入することで、こうした短期志向の行動を減らすことができる。平均的なCEOや取締役に比べて、企業監視会社(CMF)は、ずっと多くの企業のためにずっと長い間その仕事をする。これにより、株式市場はこの監視会社が株式の長期的な価値を犠牲にして、短期的な利益を追求するかどうかを知ることができる。もし、市場にそれがわかれば、短期志向の行動をとっても株価が思ったようには上がらないので、そうする誘因はなくなる。監視会社を導入することが顧客である企業の真の価値を高めるという評判ができる。株主は監視会社が指名した役員が承認する長期的な投資に対し、より大きな信頼を置くことができるだろう。長期的な評判を高めるため、監視機関は、経営者の望んだ結果になるような創造的な(Creative)会計処理ではなく、より役に立つ情報をもたらす会計慣行を勧めるようになるだろう。

情報の不足する場合に、効果的な監視ができにくくなっているのは、もっとも活動している株主である、カリフォルニア公務員年金基金(CalPERS)が圧力をかける対象を選ぶやり方をみても明らかである。CalPERSは、その株価がこの数年、停滞している、アンダーパフォーマーの企業に焦点をあてる。しかし、資源をもっとも無駄にしてしまいがちであるのは、無駄遣いできる余裕が一番ある企業、つまり、かなりの額のキャッシュフローを生み出している企業である。泥棒に入られてから鍵をかけるようなことをするより、こうした企業の市場価値が失われる前に、無駄を押しとどめられればその方がよい。しかし、問題が明らかになる前に、企業を効果的に監視するには、企業の内部情報を得るための投資をしていくことが必要になる。ところが、株主はそのような知識に欠けているため、現在の仕組みではすでに株価への悪影響が表れて、問題が明らかになった時にしか、経営者から株主に権力が移らない。その場合でさえ、損失は経営の失敗ではなく、不運のせいかもしれない。しかし、フリーライダーの問題があるために、そのどちらなのかを探ろうとしても、株主にとって得にはならない。だからこそ、すべての株主による費用負担で、監視仲介機関を導入すれば、その問題を効果的に解決できる。

CMFを使うことで、現在の企業の経済的な規律(の緩さ)を特徴づける、過度の拡大経営やそれにつづく大量の解雇(レイオフ)という、苦痛に満ちたサイクルを抑え込むことができそうである。敵対的買収は弛んだ企業に切り込む有効な方法である。しかし、株主と特に職を失う従業員の両方にとって、それは高くつく。毎日、気をつけてスリムでいるやり方のほうが、破壊的なダイエットや脂肪吸引療法より、ずっと望ましい。

ここで提案したシステムは、競争や私利私欲を制御して、より多数の人の利益を増進する。株式の所有権は、特に年金基金を通じて、広く分布しているので、ここで提案した変化は、資本主義の果実を経営エリート層から、働く人々や引退後の人々により多く移転することを約束する。株主は経営者よりずっと広い一般大衆を代表しているので、企業の長期的な利益だけでなく、他の利害関係者(Stakeholder)への扱いも改善するだろう。その対象には従業員や顧客、環境面で企業の影響を受けるところに住んでいる一般大衆が含まれている。もし、監視の仕組みを改善することで、株主の信頼を高めることができれば、株主は企業の儲けに加えて、より公の利益を追求するよう経営者を奨励するだろう。その上、この仕組みを通じて帝国を建設しようという誘因がなくなっていけば、徐々に独占的支配力を減らし、競争を促進して消費者の利益をもたらすことになる。実際、もし、分散投資をした投資家がインデックスによるポートフォリオを持つようになり、株価の最大化と社会の他のゴールの間で、その株主が自分の利益のためにあるトレードオフの組み合わせを選んでいけば、それは社会のために最適な組み合わせに近づくであろう。この命題の面白い事例は、マイクロソフトである。つまり、もし、(マイクロソフトのような会社で)株主の多数が社会への影響が利益と同じくらいに重要だと考えたなら、株主による監視が企業の経営方針をどのように変えるだろうか、ということである。

監視仲介機関が登場するなら、大株主の存在はそれほど重要ではなくなるだろう。小口の株主にとって、大株主には明暗両面がある。大株主は経営者の監視という金のかかる仕事を株主全員のために引き受けてくれるかもしれない。大株主は、プレミアムを払って、株式全部を買い取るかもしれない。しかし、会社を自分の利益になるように動かして、他の所有者に害を及ぼすかもしれない。それはたとえば、グリーンメイルを通じた利益の受け取り、「ホワイトナイト」との取引やインサイダー情報の利用、さらには、実質的に経営陣に参加し、会社との内部者取引(non-arm’s-length transactions)からさまざまな利益を得たりすることである[5]。もし、株主がCMFを使うと決めれば、もはや株主全員のために経営陣を叱咤する、大株主を必要としなくなるだろう。しかし、株式の半数近くを保有する株主あるいは株主グループは、監視会社の選択を支配し、少数株主を犠牲にして、その力を悪用することができるかもしれない。その場合には(CMFを作れば、大株主によるモニタリングが必要なくなるので)大量の株式を集めることを制限して、(大株主の権利の濫用による)エージェンシーコストを小さくするやり方が使えるかもしれない。その場合には、モニタリングを支配することで、もたらされるメリットもなくなるからである。もっとも、株主の過半数が承認すれば、一人が企業全体を買収することはあってもよい。というのは、その株主が企業を完全に改革すれば、効率的になれるかもしれないからである。

第三者が監視機能を請け負うことで、大株主も利益を受けることができる。職業的な監視機関は、他のどの株主よりも会社について知識を得ることができる。もっとも効果的な監視をするためには、法律上はインサイダーと考えられるくらいに、公開情報よりさらに進んだ情報を得るべきである。(一般)投資家は、同じようにインサイダーになるような情報を得るのは避けざるを得ない。そうでないと取引を制限されてしまう。

他方、企業特有の情報が競争相手に漏れないよう、監視会社が注意するのは当然である。もし、CMFのような外部の機関が複数の会社の中を知ることができると、この危険はさらに増す。これに対する第一の防御は、監視会社が評判を維持する必要がある点である。もし、重要な情報が漏れたとすると、株主の投票を得られなくなるだろう。この方法のほうが、現在の取締役会制度よりも、企業固有の情報を守るのに適している。取締役は守るべき長期的な評判がより少なく、所有者への責任感も低いからである。監視によっても固有の情報が漏れないことを、いったん所有者が信頼すれば、内部者情報への完全なアクセスをCMFに義務づけるかもしれない。

株主による訴訟は、取締役と経営者による権力の濫用を防止するために、必要ではあるものの、高くつく最後の手段である。監視会社制度の導入は、この費用を増やすのだろうか。監視会社という、訴訟の対象が一つ増えるのは確かである。しかし、裁判所が無力な株主を守るという本来の必要はなくなってしまうだろう。株主はもはや無力ではなくなるだろう。毎年、株主は監視会社を解任し、監視会社は取締役を解任できるからである。CMFが自分の評判に大きな投資をしてなら、その評判を大事にする。裁判所が行動を強制しなくても、一旦、監視会社が自分の行動の基準を下げてしまうと、その評判は失われてしまう(ので行動に気をつける)だろう。投資家が訴訟を起こす権利は、それでも必要な最後の手段であろう。しかし、(訴訟以外で)所有者に対して効果的に責任を負う仕組みを作っておけば、いざ訴訟においては、いわゆるビジネスジャッジメントルールをより簡単に発動して監視会社、取締役や経営者を守ることができる。

仲介機関が企業の監視をする仕組みを発展させていくと、何らかの弊害もあるだろう。しかし、それは便益よりもずっと少なく抑えられる。これには二つの理由がある。第一に新しいことを始めると、予期せぬ不運はつきものである。もし、株主が新しい監視の仕組みを試してみて、それがうまくいかなければ、投票でそれを修正したり、止めたりもできる。第二に限界的にそのコストが便益を上回らない間は、便益を追求すべきである。明らかに無駄や悪い効果が表れない限り、監視会社の力と予算を拡大するべきである。

監視会社の力が集中すると、社会的、経済的コストがかかるかもしれない。独占禁止法上の懸念があるのは明らかなので、どの監視会社も同じ産業の二つの顧客を監視できないようにするべきであろう。このような権力の移転がどういった結果を及ぼすかをそれ以上に予測するのは難しく、実際に実行してみないとわからない。

 

 

4.国際的な適用

 

ここで提案した仕組みが実現すれば、現在のアメリカのレベル以上に株主の力が強くなるだろう。ところが、アメリカではおそらく世界でもっとも株主の力が強い。だからこそ、監視会社が実施されるのも、もっともその必要がない、アメリカが最初となるだろう。コーポレートガバナンスが継続的に進歩することで、現在のアメリカの株価の上昇が支えられてきた。それは、ちょうどコンピューターメモリーの先物相場があれば、一体どんな技術が出現するのか具体的にわからなくても、(今後についても)これまでの価格のトレンドをそのまま延長するだろう。同様にコーポレートガバナンスも過去の趨勢そのままに、さらに進歩すると予想されている。もし、期待されていたようなガバナンスの改善がないと、アメリカの株価は、下落し始めるかもしれない。

効果的なガバナンスの仕組みは、韓国、日本、ロシア、および中国や他のアジア諸国で緊急に必要となっている。これらの国がアメリカ、イギリスやヨーロッパの成功を、モデルにしようというのは当然だろう。では、ここで述べたような仕組みを、まだ、他の国で成功の事例がない間にどうして導入しなくてはならないのであろうか。それは西側諸国に比べ、株主が直接、持つ権力の不足を補うような、(1.で述べたような)様々な仕組みを作ろうとすると、それには何年もかかるからである。それよりも、所有者と取締役会の間に監視のリンクを作る方が、根本的な問題を直接解決し、ガバナンスで遅れている国がすぐに他国に追いつくようにできるかもしれない。

もちろん、西側諸国で現在、使われているガバナンスの仕組みには、各々かなりの違いがある。たとえば、イギリスの会社は、最高経営責任者(CEO)と取締役会の会長を分けているのに対し、アメリカでは通常はそれが同じ人である。この役割を分ければ、CEOへの監視は強くなるだろう。それでも、取締役の選任の際に株主が実質的に参加していないと、取締役が独立していることやその株主に対する責任が果たされることを保証しがたくなる。この場合でも、監視会社によって選ばれた取締役会は、社外取締役の存在を強化するという、アメリカやイギリスの趨勢そのままに、社外取締役を会長に選ぶ可能性が高い。この動きは、現在でもすでに表れており、英米のガバナンスの仕組みがドイツやオランダの二階建ての取締役会に近づいているのである。

Aという国が、外部の監査役会と内部の執行役員会という二階建てのシステムを持っており、その二つの組織が時には別々に、時には一緒に会合を開いているとしよう。B国は企業内部と社外の人の両方からなる一つの取締役会があり、それでも両者が時には別れて会合を持っているとしよう。これまでのところ、ABの違いは、単に言葉の上のものにすぎない。問題になるのは、CEOを解任するかどうかなど、重要な意思決定を誰がするかである。それが外部の取締役だけで決められるなら、CEOや他の内部者である取締役が投票に参加できる場合に比べて、CEOの力はずっと制限されている。つまり、社外の取締役の選任を株主が効果的にできるようにするには、CEOの解任などの(重要な)意思決定は外部の取締役に任せておいた方がよいのである。

この問題は、より大きく共同決定の問題、つまりCEOであれ、他のレベルであれ、取締役会に従業員が代表を送るべきかどうかという問題の一部分でもある。欧州の統合に際して、この論争に関する調査をしたGerum and Wagner(1998) は、一般論としては、一つのガバナンスの基準を強制するのではなく、いくつかのガバナンスの仕組みの中での、自由な競争を支持するとしている[6]。しかし、これまでの議論やガバナンスの仕組みができたのは、一般の株主が意思決定に参加する仕組みがないために、所有者がほとんど影響力を持っていなかったところだった点には注意すべきである。それはこれまでの話ではあるが。

会社の所有者を代表するCMFを導入すると、共同決定に関するいくつかの重要な側面が変わってくる。長年にわたって多くの顧客企業のために仕事をした実績から、監視をする会社の評判が作り上げられる。これにより、雇用主に、契約をした後に機会主義的な行動をとるのを差し控えさせ(それにより評判を維持しようとする)強いインセンティブが(CMFに)生まれる。その結果、共同決定が解決できるだろう、エージェンシーコストが(共同決定なしでも)削減できる。従業員の代表を送り込むべきだという考えの他の根拠は、プラスの外部効果(external effect)が働くという点である。しかし、3.で述べたように、十分に分散投資をしている株主は、自分たちの意思決定が外部社会に及ぼす影響の多くを内部の問題と考えるだろう。つまり、経営者によるエリート主義への反対として、すべての株主に発言権を与えるなら、(共同決定なしに)産業社会での理想的な民主主義を進めることができる。(株主に発言権を与えるなら)同時にエージェンシーコストを削減することで経済効率を高められる。経営者が自分の金をどう使うかについて、従業員に投票権を与えると、エージェンシーコストが増加して、かえって非効率になる危険性がある。同様にもし、自分が解任されるべきかどうかについて、CEO自身に投票権を認めるのは、もし、アメリカやイギリスのようにそれが普通でなければ、論外の話ということになる。

多分、(CMFを導入して)所有者がより効果的に意思決定に参加できるようにするなら、従業員が株式を保有するのは、雇用主と従業員の間の利益相反を軽くする上で、(CMFがない場合より)ずっと良い手段となる。しかし、もし、従業員が株式の半数以上を持っていると、自分たち自身に過剰な報酬を払うといった内部者取引によって、少数株主の利益を奪うことができる。しかし、持株比率がそれより低ければ、持ち分を持っていることで従業員はより所有者として振る舞う気持ちになり、会社の方針に実際に影響を与えるようになる。この場合、選ばれようとする、監視会社は従業員と従業員以外の利益の間にちょうどよいバランスを探そうとするだろう。このようにすれば、労働者による、正式な代表をわざわざ(取締役会に)送る必要は少なくなるだろう。

取締役会は従業員はもちろん、顧客、仕入先などと定期的にに会うべきだということは疑いない。そうした意見交換が会社のためになるのは当然である。(その論を進め)取締役会の意思決定が従業員の厚生に影響を及ぼすのは事実であるから、従業員が取締役会に代表を送るべきだという議論は表面上もっともなように思える。しかし、組合がストライキをするかどうかの投票をする場合、その意思決定は株主の厚生に影響を与える。同じ理屈なら、株主もストライキの投票に参加するのを認められるべきだということになる。買い手と売り手が価格について交渉している時に、競合する他社と取引をするというオプションの他に、相手に影響力を行使できるようにすべきだろうか。コーポレートガバナンスの場合、この議論は最終的には、異なる構造の会社の間の競争によって解決される。欧州共同体(EU)は、均等で開かれた競争が維持され、ガバナンスの仕組みが画一的になるのが避けられるかぎりは、二度とない実験の機会を提供している。おそらくは、非管理職の従業員(Rank and File Employees)から、取締役会メンバーの一人が選ばれ、もう一人のメンバーは上級管理職から選ばれ、残りはCMFを通じて株主によって選ばれるというのが、一つの(良い)バランスだろう。この場合には、所有者が企業の財布のひもを持ちつづける一方、すべての従業員に対し、オープンさと発言権を保証することになる。いずれにせよ、改良を重ねていく内に、企業の権力構造の中での監視会社の最終的な形や役割を決めることができるだろう[7]

 

 

5.企業監視制度(Corporate Monitoring System)をどのように始めるか

 

最高経営責任者(CEO)及びCEOに忠実な取締役は、監視仲介機関を雇うことに反対するだろう。しかし、もし、株主の多数が投票で賛成すれば、それを止めることはできない。公開の場での討論や議論を通じて、この考え方のメリットや具体的にどういった形で最初に試みられるべきかということについての、株主の意見が形成されるだろう。次に過半数の投票が得られる可能性が最も高い、つまり、真に独立した取締役会を持つことに利益があると所有者が信じる会社で、こうした仲介機関との契約が提案される。こうした動きは、同じ考えの投資家がそうした企業の会社を買うことで、加速するだろう。

まだ、実際にそれが存在していない時に、どうやって株主がCMFを雇うことができるのだろうか。一度、需要が生まれれば、市場がそれを創るはずだ。ある企業の所有者の過半数がそうしたサービスが必要だと決定するまでに、誰かがそのサービスを始めるだろう。最初の提案が、独立した機関による取締役候補の選定だとするなら、まず、仲介機関を設立するのは、既存の経営者紹介会社(Executive Search Firms)であるかもしれない。しかし、紹介会社がやっている事業は、すべて既存の経営者との契約であるため、二つの問題に直面する可能性がある。第一に現在の顧客に対して忠実でないとして、契約を解除されるかもしれない。第二に経営者から独立していないと、株主が考えるかもしれない。したがって、仲介会社になりうるより有力な候補は、経営者ではなく、所有者のために働くという定評をすでに確立している、委任状助言会社(Proxy Advisory Firms)かもしれない。これに加えて、関連分野での経験のある個人が、企業監視の役割に特化した新しい会社をはじめて、何もないところから新たに評判を作り上げるかもしれない。

残念なことに、所有者の多数が、監視会社と契約することに投票で賛成しても、経営者が支配する持ち合い(Cross Holding)によって邪魔されることがありうる。持ち合いとは、&#