日本におけるコーポレート・ガバナンス

-1つの未来シナリオ-

 

ファイナンシャル・エコノミスト

コンサルタント

Mark Latham Ph.D

訳者:ニッセイ基礎研究所 金融研究部門 北村 智紀

(証券アナリストジャーナル 2000年1月号掲載論文)

 

訳文における大括弧[ ]は、筆者によるものである。また、括弧( )内の日本語は訳者による追加である。

 

日本経済を再び活気づけるためには、コーポレート・ガバナンスの変化が必要であり、それを効果的なものにするためには、株主の権利によってサポートされる必要がある。株主の影響力を生かすための、実現可能な1つのメカニズムが、「企業モニタリング」である。企業モニタリングでは、株主は企業の資産を使って独立機関を雇い、議決に対する助言を得る、この提案により、低い雇用の安全性、CEOの高すぎる報酬、近視眼的経営といった、アメリカのコーポレート・ガバナンスの欠点に苦しむことなく、株式のリターンを高めることができる。 このようなシステムは、株式持ち合い比率が低い日本企業の株主には実行可能だろう。(しかし、)株式持ち合い比率が高い[50%か、それ以上]典型的な日本の大企業では、経営者が企業所有者(株主)に議決で勝つことができる。(そのため、)このような経営者支配を低下させるために、政府の圧力が必要であるかもしれない。コーポレート・ガバナンスに関するこの提案は、破綻した銀行の資本を再構築し、復活させるような法人税制と預金保険システムの改革とを合わせ併用することができる。

 

1.はじめに

日本のコーポレート・ガバナンスの将来については、数多くのシナリオを書くことができる。この論文では、投資家と政府の行動により、日本のコーポレート・ガバナンスを発展させる処方箋ともいえる、1つのシナリオを紹介する。ここでは、将来(の日本におけるコーポレート・ガバナンス)を正確に予測することよりも、(このことについて)考えたり、議論したりすることのほうが、価値がある。

多くの人が、日本企業のコーポレート・ガバナンスを改善することが、日本経済を復活させるために必要不可欠であると考えている。そのために、「日本コーポレート・ガヴァナンスフォーラム〔1998〕」は、「コーポレート・ガヴァナンス原則」を提案した。そこでは、企業経営者から独立している、取締役を半数以上選任するような変化を主張している。深尾〔1998〕は、株式の持ち合いが徐々に解消されて、(年金基金や投資信託等の)信託や外国人による株式の保有が多くなれば、経営者の株主に対する責任のあり方が、改善するであろうと予測している。(注1)[近々発表される]ギブソン (Gibson)論文 は取締役のさらなる独立性と、取締役や経営者の報酬を、より株式にリンクしたものにすることを主張している。

この論文の第2章では、経営者が、ある一定レベルの株式持ち合いを維持することにより、株主に対する責任を極力回避するための力と動機を持っていることを強く主張する。第3章では、仮に株式持ち合い問題が解決できるなら、株主が経営者の責任を確実なものにするための新しいシステムを、どのように実行できるか説明する。この新しいシステムとは、インターネットの利用、独立した機関よる議決権行使や、取締役指名についての助言に関するものである。第4章では、特に従業員の取り扱いに関して、この新しいシステムを日本の社会的、政治的な嗜好にどのように適合させるか述べる。政府の政策オプションを含めて、このシステムを実行するための方法を第5章で述べる。第6章では、銀行改革の方法に関連して、破綻した銀行の資本再構築のためにデザインされた特別な方策を提案する。結論が第7章である。

 

.コーポレート・ガバナンスの改善を妨げる株式持ち合い

コーポレート・ガバナンスの改善は非常に喜ばしいことではあるが、ところで、誰がこれを実行するのだろうか? 誰が、(このことを実行する)力と動機の両方を持っているのだろうか? 誰に対しても責任を負うということは、経営者が望むことではない。行動の自由を持っている方がいい。協力的な相手企業による株式持ち合いが十分に行われていれば、(会社の利益が帰属すべき)受益株主による、いかなる支配権の行使も妨げることができる。経営者が、このような(株式持ち合いの)仕組みを自発的に断念することは期待できない。

会社の業務執行には直接関わり合いがない、独立した取締役の数を増やすことを考えてみよう。  誰が、彼らを指名するのであろうか? 答えは、現役の取締役会である。(しかし、)彼らの動機は、グループへの忠誠を保つことにある。取締役指名に、独立性という目的を達成しようとする動機はなく、体裁を繕うだけである。独立は見せかけで、本質ではない。書面の上では独立性要求を満たしている経営者に友好的な者が、取締役に指名されるであろう。 経営者よりも企業所有者(株主)の利益を追求する取締役は、次の指名から外されるだろう。

[近々発表される]Gibson論文は、「株式の持ち合い解消が、(企業買収のような)企業支配を目的とする取引市場が活性化するための必要条件であるように思われる」と指摘している。経営者に対する所有者(株主)の有効な議決権行使圧力は、同じく必要条件である。深尾〔1998〕は、銀行が自己資本規制を満たす必要性から、ある程度の保有株式売却を進めるだろうと述べている。しかし、銀行による株式売却が、日本企業の持ち合い解消を徐々に促すという考えは、希望的観測である。議決権をコントロールする経済的動機は、あまりにも大きい。特に投資家の行動が積極的な場合や、外国人投資家の企業所有に直面した場合は、まさにそうである。 このような場合、経営者は、何も障害がなければ、株式の持ち合いを強化するだろう。

BebchukKraakmanTriantis〔1998〕は、株式の持ち合いや、キャッシュ・フローへの権利と企業支配とを切り離した構造(例えば、クラス株のように議決権や配当等に対する権利が各クラスにより異なる株式の構造)に関する、エージェンシー・コストをモデル化した。(それによると、)これらの場合のエージェンシー・コストは非常に高く、多数株主と少数株主との間にあるエージェンシー・コストよりも問題があり、講レバレッジ用いた資本構成のエージェンシー・コストよりも高い。これは、コーポレート・ガバナンスを改善するためには、株式の持ち合い問題を解決しなければならないという考えを支持している。

 

3.アイディア:分散した株主をまとめるための行動

仮に、議決権に関する経営者の支配を減らすことがどうにかできるとしたなら、株主が新たに持つ決定権を、どのように使うか考えなくてはならない。この章では、今日のアメリカの株主に比べて、多くの影響力を及ぼすであろうコーポレート・ガバナンスに関する新しいシステムを提案する。  それは、過大なCEOの権限と報酬、近視眼的経営や大量解雇を特色とする、アメリカのコーポレート・ガバナンスについて、幾つかの欠点を修正する試みである。

これからしばらく株式持ち合いがないものと仮定しよう(後にどのようにこれが達成できるかに戻ろう)。全ての株式が、(会社の利益が帰属すべき)受益株主や、株式を保有している企業の経営者ではなく、受益者に対して忠実な(年金基金や投資信託等の)信託によって保有されているとする。 さらに、(株式の)所有権がアメリカのように分散されていて、 ほとんどの会社で、5%以上(株式を)所有する株主がいないものと仮定しよう。

株主は、議決権の行使の仕方、取締役の指名、株主提案権、あるいは他の手段を用いて、経営者に影響を与えることができる。これらすべてには時間や資金、あるいは、その両方がかかる。時間や資金をかけて会社の収益性を改善しようとする株主は、他の株主の利益にもなっている。(株式を)5%も所有している投資家でも、100%保有に相当するコストを支払って(収益性改善に)努力したところで、そこからの利益の20分の1しか報われない。他の所有者(株主)は「フリーライディング(ただ乗り)」である。このようなコストと利益との不均衡は、どのような個人投資家や機関投資家に対しても、経営者に対する自発的なモニタリングを思いとどまらせる。

取締役会が、株主の代わりに経営者をモニターすることで、このフリー・ライダー問題は解決できるはずである。彼らは、会社から報酬を得ている。すなわち、すべての会社所有者(株主)から報酬を得ている。フリー・ライディングはここには、存在しない。しかし、取締役の選出や報酬は、アメリカにおいてでさえ、所有者(株主)よりも経営者の影響を受ける。そのため、取締役は、経営者の利害を優先し、(会社の)有効な監視は行えない。

公式には、株主が取締役を選任することになっているが、現役の取締役会によって推薦された候補者名簿の中から選任されるのが典型である。対立候補の指名や、候補者を良く理解して投票することは、上述したフリー・ライダーの問題によって制限される。

この問題への解決策は、委任状助言会社(proxy advisory firms, PAFs)をベースとして設計される仕組みであろう。この助言会社は、機関投資家に対し議決権の行使の仕方を助言して、手数料を得る会社である。アメリカの年金規制当局が、フリー・ライダー問題があるにもかかわらず、(基金に)議決権行使をするように求めている。大抵の年金基金は、どのように議決するかを調査するために、自らスタッフを雇うより、むしろ、委任状助言会社 から助言を買っている。しかし、個人投資家や多くの投資信託は、このような助言を買う選択をしていない。彼らの多くが、議決権を行使しないか、あるいは、経営者の提案に何も異議を唱えないで賛成する。

議決に関する独立した助言は、グループとしての株主に有益である。したがって株主ひとりひとりではなく、グループで、それを買うべきである。委任状助言会社は、議決に関する助言がすべての人に入手可能となるように、会社から(手数料を)支払われるべきである。  この考えは、最初に Latham 〔1999b〕によって考案され、公式にアメリカ企業9社に提案された。これらの企業は、www.corpmon.com サイトにリストアップされ、2000年度の株主総会では、この提案が議決される。

取締役や監査役の選任プロセスとは異なり、経営者や取締役会は、委任状助言会社の候補を推薦しないであろう。さまざまな委任状助言会社が、多様なサービスを提供して、サービスに応じて料金を決めることができるだろう。競合関係にある委任状助言会社の中から、株主が投票して選択するであろう。このシステムの成功の鍵は、各委任状助言会社の特性を、いかに容易に査定できるかという投資家の能力にかかっている。彼らは、パーソナル・コンピュータの品質に関する消費者調査とほぼ同様に、十分検討されたメディアの意見を読むことによって検討すればよい。取締役候補の評判を聞くよりも、委任状助言会社の評判を聞いた方が余程、簡単であろう。なぜなら、委任状助言会社は全国で約10社だけなのに対し、全ての企業をあわせば、何百人もの取締役候補がいるからだ。だから、取締役ポストに競争原理が働かないのである。

しかし、若干のフリー・ライダー問題は依然、残っている 委任状助言会社の選択にも時間がかかるからである。わざわざ投票しないで、時間を節約しようとする株主もいるだろう。Latham 〔1999c〕で提唱されたように、幸いにも、インターネットを使えば、物理的にも精神的にも、非常に投票し易くするであろう。数多くの投資家がインターネットに接続しているので、インターネットは委任状行使の参考資料、議決権行使に対する助言、そして議決権行使そのものにも利用されるであろう。既にアメリカでは、インターネットを通じて、議決権行使が多く行われている。最終的には、株主は[経営者側及び独立した助言会社の両方を含めて]助言者を一度にランキングして、自分のコンピュータに、自動的に投票させることが可能になるだろう。最少の時間しかかけたくない人でも、独立して議決できるし、他方、時間を多くかけて決断したい人は、そのようにすることも可能である。

会社が(手数料を)支払うこのシステムを導入して、投資家が委任状助言会社を信頼することを学ぶと、このような仲介機能をさらに拡大することによって、彼らのために有益になることが理解できるであろう。議決権行使に対する助言は、経営者をモニターするための唯一の方法ではない。さらに一層重要なことは、何を議決するかである。委任状助言会社は取締役候補の指名や、報酬体系の交渉、提案のドラフト作成へと応用できる。積極的に行動する投資家の役割を仮定すると、Latham〔1999a 〕が述べた「企業モニタリング会社(企業監視会社:Corporate Monitoring Firms)になるであろう。 その論文は、議決に対する助言からスタートして、取締役候補を推薦することに焦点をあてたものであった。本論文は、議決に対する助言からスタートして、一層慎重なステップを提供するものである。このように、株主の影響力が継続的に増大することは、株式のより高いリターン、CEOのより現実的な報酬、(会社の)利益と社会的目標とのバランスをもたらすであろう。

 

4.デザイン:日本で企業モニタリングを適合させる方法

株主による(企業に対する)圧力は、日本の社会と両立できるだろうか?  特にそれは、生涯雇用され続けると考え、失業という途方にくれる前途に十分準備ができていない、従業員の大量解雇を引き起こすだろうか?  ここで提案する企業モニタリング・システムは、頻発する大量解雇を含めて、今日のアメリカにある、種々のコーポレート・ガバナンスに関する問題を解決するようにデザインされている。さらに、一層安定した雇用環境という、日本人の嗜好に(企業モニタリング・システムを)適合させるための方法はいくつもある。

レイオフに関する株主の圧力(が増大すること)による効果を考慮する時に、1回限りの過渡的効果と、継続的な恒常的効果とを区別することが重要である。以下の第5章では、株主の圧力が増大する過程で、日本の従業員を保護する方法が示される。もしもアメリカのように、このような保護策が欠けていれば、水膨れした会社が、経済的に妥当な大きさに縮小する過程で、従業員を解雇しようとするだろう。アメリカにおける問題は、株主の圧力が首尾一貫していない点である。  その圧力は、経営ミスの影響が、痛いほど明白になってはじめて行使される。その時だけに、敵対的買収者や、積極的な行動株主が、行動の修正を強いる十分な動機を持ち、またそれを、支持するであろう。その結果は、徹底的な削減に続く、企業の拡大サイクルである。このように無駄なサイクルは、株式価値を最大化しない。だが、修正措置をとらないよりはましである。最初に企業を水膨れさせない方が、(従業員にも、投資家にも)好ましいだろう。経営者を株主の利益のために行動させる企業モニタリング・システムは、このような(企業の)無駄な拡張を妨げる働きがある。

アメリカにおいて従業員の取り扱いが劣悪な、もう一つの理由が、「近視眼的経営」 会社の長期的価値を犠牲にして短期の利益を最大にするための経営 -である。(従業員の)訓練を無視して、従業員を容易に解雇する会社は、一時的により多くの金を稼ぐかもしれないが、雇用者としての評判は悪くなり、優秀な人材を引き付け、維持することが難しくなって、(会社の)長期的価値を損なうことになるだろう。 株主による圧力の増大は、(近視眼的経営に)良い影響を与えるだろうか?  経営者に対し、短期的な四半期利益を重視させ過ぎているとして、株主を非難する人も多い。

この問題の原因は、株主にとって、経営方針に関する情報が不足している点である。そのために、彼らは四半期利益という、自分たちが持っているわずかな情報に過剰反応する。投資家が、彼らのポートフォリオに組み入れられた企業の経営者や取締役に対する正確な評判を測定することは、あまりにも難しい。企業モニタリング会社の重要な特長は、投資家がそれらの評判を聞くことができるほど、(企業モニタリング会社の)数は少なく、また、十分に長い期間そのビジネスを行っていることである。では、ある企業の株主が、2つの企業モニタリング会社の中から選択するとしよう。企業モニタリング会社Aは、長期的価値を犠牲にしても短期的利益を最大化するように、経営者を奨励するとの評判を持っている。 企業モニタリング会社Bは、短期的利益は困難だか、長期的価値を最大化するように奨励するとの評判を持っている。 いずれの企業モニタリング会社を選択することが、短期的な株価を最大にするであろうか?  答え:企業モニタリング会社B!!  もしもトレーダーが、(現在の)利益が乏しくても、長い目で見れば株価が上昇するであろうと信じるなら、短期的な株価も上昇するであろう。  このようにして、企業モニタリングが、近視眼的経営を減らすものと考えられる。これは、単に従業員の取り扱いを改善するだけでなく、投資家を惑わす会計方針のような近視眼的経営に対しても、同様の効果をもたらすだろう。

従業員と株主間の結びつきを、さらに強くする方法が幾つかある。1つは、従業員が株主になることである。そうすれば、当然のことながら、彼らは所有者(株主)の地位向上に参加して、(会社の)収益性の向上から、利益を得るだろう。(注2)もう一つは、解雇に対して明確な補償がある雇用契約である。 最後に、もしも日本の現行法が、(従業員の)保護に十分でないなら、それを強固にすることがあるだろう。 しかしながら、過去よりも、もう少しリスクを想定すべきとの認識が、日本人の間で高まりつつあるように思われる。

日本やその他の国は、アメリカのコーポレート・ガバナンスを採用しようとはしない。なぜなら、それは、不当に高いCEOの報酬と権力を許すように思われるからである。企業モニタリングにより、(企業の)収益性を向上させながら、所有者(株主)は(CEOの高い報酬と権力の)両方を制限することが可能になろう。企業モニタリング会社は、現在のシステムがチェック機能とバランスが欠如しているのとは対照的に、どのような報酬水準が株主価値を最大化するかについて、判断できる資質と動機を持つであろう。真の独立した取締役の選任によって、CEOと取締役会議長との役割について、意味のある区別が行われるだろう。 公正な会計方針に基づくCFOの報告は、CEOに対してではなく取締役会議長に報告されるはずである。 階層的でない権力構造が築かれ、意思決定には多くのコンセンサスが必要となるだろう。

株主による有効な経営者モニタリングは、総会屋という日本固有の問題も減らすであろう。総会屋は、当惑する経営者を脅して、金をゆすり取ったり、(株主総会で)異議のある株主を抑圧することにより、収入を得るような者である。明らかにこれは、企業所有者の利益にならない。投資家は、それを妨げることで評判の高い企業モニタリング会社に投票するであろう。

 

5.実行:日本で企業モニタリングを導入する方法

この論文では、企業のモニタリング・システムを作ることによって、株主の権限を増大させても、受け入れ難い失業レベルを引き起こさないで、日本経済を活性化できるという見方を提案した。 一体、何がこのような変化を引き起こすのであろうか?  現在のトレンドの多くが、その方向に進んでいる。しかし、主要企業の経営者による議決権支配を打ち破るほどには、投資家(や従業員)の影響力は十分でないかもしれない。株式持ち合いを減らすか、あるいは、持ち合い株式の議決方法を変えるには、最終的には政府の圧力が必要かもしれない。

企業モニタリングは、日本より前に、米国で試される可能性が高い。第3章で述べたように、すべての株主のために、議決権行使についての助言に対して、企業が(手数料を)支払うことが、アメリカ企業9社で最近提案された。 もしも、この提案が成功して、特に株式のリターンが改善するなら、日本やその他の国の投資家も、同じくそれを実行するよう望むであろう。

日本の株式投資家のインターネット利用は、急速に伸びている。 特に、もっと多くの投資家の対話が、インターネットによって行われれば、議決権行使に参加する投資家を増やしたり、投資家が議決権行使に関する情報を容易に共有できるようになるだろう。

日本の株式保有は、株主の声を増幅するような、幾つかの方向へ変化しつつある。日本の信託や外国人による(株式)保有は増加している。これに対して、銀行や事業会社による株式持ち合いは、少なくともある程度、減少している。- 深尾〔1998〕と東京証券取引所〔1999〕を参照。

日本の新しい企業に対するベンチャー資金供給は、軌道に乗りつつある。1999年の私募株式の発行額は、その前4年間は1年あたり300億円であったのに対して、6000億円であった。(Edwards[1999])  これらの新しい企業が株式公開する時に、企業価値を高める新しいコーポレート・ガバナンスを実行させることは、株式持ち合いを行っている成熟企業の保守的な経営者から権力を奪うことよりも、ずっと容易であろう。多くの既存の日本企業の株式持ち合い比率は25%以下なので、株主が議決権行使圧力を行使して企業モニタリングを導入することは、可能かもしれない。(注3)

コーポレート・ガバナンスの改善が、最もそれを必要としている会社 成熟した日本の大企業 -が最後になることは皮肉であるが、おそらく避けられないだろう。50%以上の株式持ち合いを持続することは、経営者による、長期企業支配の継続を可能にした。 十数年の間には、古いスタイルの企業よりも、企業モニタリングを行い、効率的に経営している企業の成長が大きくなるはずである。そして、結局のところ、(これら企業が)経済を支配するであろう。しかし、このプロセスをもっと加速することによって、多くの浪費が節約できるのである。

なぜ法律で株主による議決権行使を規定するのか?  なぜ全ての決定を、経営者任せにしないのか?  その理由は、経営者が自分自身を解任するかどうか、株主の金を自分自身に(報酬として)支払うかどうかといった決定を行う際には、明らかに利益相反があるからである。経営者に、個人的に所有していない株式の議決権行使を許すことは、その株式が株主の資金で購入されたものであるため、同様に利益相反の可能性が高い。彼らが議決権行使しているのが、(持ち合い株式であって)彼らの会社自身の株式でないという事実も、利益相反を取り除かない。良く知られているように、株式持ち合いは、友好的な議決権行使の取り決めのためだからである。これらの議決権は、金で買われている。

顧客が保有する株式の議決権を、証券会社(ブローカー)が行使することを規制しているアメリカの法律は、比較対象として有効である。反対候補がいない取締役指名のような通常の投票事項の場合、ブローカーは顧客の保有株式の議決をすることが許される。その際、ブローカーはおおむね経営者の推薦に従う。しかしビジネス関係を通じて経営者が影響力を与える可能性があるため、株主提案や、反対候補者名簿がある取締役への議決などのような利益相反的な事項の場合、ブローカーは顧客の保有株式の議決権行使ができない。 同じ理由で、持ち合い株式における利益相反的問題は、その(会社の利益が帰属する)受益株主だけにより議決されるべきである。その株式は、経営者による個人的な所有ではない。もしも、持ち合いの相手方企業の株主から、議決権を完全に(受益株主に)手渡す仕組みが開発できるなら、その議決は適切であろう。 さもなければ、それらの株式の議決権行使は、されるべきでない。これ(議決権の剥奪)は、企業年金基金が保有する株式にも当てはまる。その理由は、経営者が容易にその議決に影響を与えることができるからである。(注4)

経営者は従業員の利益を守っていると主張するかもしれない。株主の権限が増大することにより、従業員の利益は侵害されるかもしれない。しかし、現在の日本経済の沈滞は、従業員が、結局のところ、この種のガバナンス・システムによって保護されていないことを示している。すでに第4章で概説したように、企業所有者(株主)は、企業モニタリングにより、従業員と長期的な相互利益のために協力しようとするだろう。さらに、企業所有者(株主)は、雇用の安定を提供できるように、企業モニタリングを適合させるだろう。

さらにもう1つ、従業員の保護策であるが、従業員の多数による承認を条件とすれば、持ち合い(株式の)議決権行使の法的な禁止を実現できるであろう。この手はずを整えるためには、まず(利益が帰属すべき)受益株主が、従業員報酬の設計を目的に、独立した交渉者を雇うために会社資金を使う権限を、与えられる必要がある。単純な例を説明すると、企業所有者(株主)は、株主にコントロールされた企業への変革を承認させるよう説得するために、全従業員に新株を十分に付与できるだろう。もしも、このコーポレート・ガバナンス改革が本当に公共の福祉を増加させるなら、相互に有益なこの仕組みの達成は可能であろう。

 

6.破綻した日本の銀行を変える方法

銀行は、日本経済を復活させるための、いかなる計画においても、特別な考慮に値する。コーポレート・ガバナンスを改善するために、ここで提案された考えは、銀行にも適用できる。しかし、他のいくつかの問題を、同時に取り扱われなくてはならない。特に破綻した銀行に対して、政府は、納税者のコストを最小にしながら、預金者と従業員を守る方法と、そして最も重要なことは、このように無駄な危機の発生が繰り返されないようにする方法を考える必要がある。銀行が破綻することによる唯一の明るい希望は、それが根本的な変化を促す、またとない機会を提供する点である。例えば、破綻した銀行の古い株式は、事実上価値がなくなるので、資本再構築の際には、株式持ち合いが解消される。

銀行破綻には、貧弱なコーポレート・ガバナンス以外に、2つの主な原因がある:株式の二重課税と、(破綻した銀行の預金量に対して)不十分な預金保険である。日本とアメリカで、銀行だけでなく、全ての事業会社で、株式に対するリターン(returns to equity)は2度 法人税と所得税の両段階 課税される。これに対して、負債に対するリターン(returns to debt)は、所得税段階のみ課税される。法人は、負債利子を税控除できるが、配当はできない。このことは、特に金融仲介機関に対しては、より高いレバレッジのインセンティブを作りだす。(注5)

この不公平な税金の取り扱いを明確に説明する具体例として、銀行ローンの証券化がある。この取引は、銀行の貸借対照表上の不良資産問題を、不良資産を割り引いて売却し、キャッシュを得ることによって、「解決」するために使われている。不良資産はプールされ、(キャッシュフローの)支払いは投資家にパススルーする。このような不良資産プールに対する税金の取り扱いは、同じ資産を持つが、預金がなく、100%株式で資金調達している架空の「銀行」と比べられる。 「銀行」が法人税を支払うのに対して、証券化されたプールは何も支払わない。この歪められた税制が、銀行にレバレッジをかけさせ、規制当局は銀行の不適当な資本構成を懸念する!

そして、破綻銀行が規制当局により買収され、おそらく資産の25%程度と思われる適当なレベルまで資本増強させるために、財政資金が十分に注入され、その後に、改めて新規公開される。 (私の提案が実現されれば、)その銀行は、(株式に対して)税制上のペナルティーがない新しい税制のもとで営業することになろう。(注6)レバレッジに対するインセンティブがなければ、最低資本の維持という資本規制を達成することは、より容易であろう。(預金)保険のリスクプレミアムが加速度的に上昇している場合は、資産の25%か、それ以上の資本を保たせるであろう。この場合、高い(資本比率)レベルを保つことになっても、(税制上のペナルティーがなければ)経済的な損失は何もない。詳細な例が Latham 〔1998〕にある。

株主に対して責任がある銀行経営者が、健全な経済的基盤の上に立って、貸出を決定するであろう。企業モニタリング・システムを実行することは、(銀行破綻という)災難の再発防止に必要な条件を作りだすと思われる。前章で述べたように、この変革は、従業員を十分に保護するように設計できる。ちょうど企業所有者が、従業員を巧みに扱うことに対して、長期的な[そして短期的の]利益を見いだすのと同じように、借り手を巧みに扱うようになるだろう。経営者に対する良好な評判が、納税者の純コスト負担を下げて、資本再構築した銀行の株式発行価格を高めるであろう。

 

.結論

「日本コーポレート・ガヴァナンス・フォーラム〔1998〕」の勧告は十分でない。なぜなら、株式持ち合いが、株主に対する経営者責任を妨げているからである。このような改革が、効果があるためには、株主の権限を増大させ、改革を後押しするようにしなければならない。幸いなことに、さまざまなトレンドが投資家の影響力が大きくなる方向へ、進んでいる。信託や外国人よる株式保有の増加や、インターネット利用の拡大も、それに含まれる。

株主の声を生かす新しいメカニズムが、アメリカで現在検討中であり、日本企業においても、投資家のために有益なツールとなりうるだろう。 「企業モニタリング」は、株主が議決や取締役選任等について助言を得る目的で、独立した機関を雇うために会社に資金を負担させる。企業所有者(株主)の利益を、経営者のそれより優先させることは、近視眼的経営や極端なCEOの報酬を避けながら、株式のリターン向上を約束する。従業員を巧みに扱うことは、企業所有者(株主)の長期的関心であるから、日本社会においても容認できる程度の雇用安全性のレベルが持続されるだろう。

企業モニタリングは、経営のための株式持ち合いレベルが低い日本企業の株主によって実行されるだろう。株式持ち合いレベルが高い、多くの成熟した大企業は、政府の圧力により、企業所有者(株主)が権利を行使できるようにする必要があろう。

銀行破綻が、銀行のコーポレート・ガバナンスだけでなく、(銀行の健全経営を妨げる)動機と、(最終的には破産という)無駄を促しかねない税法や預金保険制度を、根本的に改革する、またとない機会を提供する。

 

後注

(注1)日本企業の株式のおよそ2分の1が、他の企業によって所有されている 東京証券取引所 〔1999〕参照。

(注2)従業員が自分自身の給料を払い過ぎることに賛成議決をするエージェンシー・コストを避けるために、従業員の株式保有比率は30%以下、あるいは100%(完全に企業を所有すること)のいずれかに制限すべきである。  この制限をいかなる潜在的な(企業)支配グループにも適用するのは、おそらく最も良い考えだろう。

(注3)同様に保険契約者は生命保険相互会社の企業モニタリングを導入できるだろう。

(注4)その形式を問わず、(株主の)秘密投票が、投票権売却に対する防御策なり得るであろう。

(注5)何故これが事業会社や米国の銀行に、トラブルをあまり引き起こさなかったかを議論することは、この論文を長くし過ぎるであろう。

(注6)これをアレンジする方法はいろいろある:所得税段階のみの利子課税、利払い前の法人税課税、総資産に対して(法人税)課税すること。税率は、レバレッジがない銀行が、レバレッジがある典型的な銀行と同じような額の税金を支払うように、決定されるべきである。

 

 

References

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